研究概要 |
最終年度の研究成果は以下の通り。 H17年度までに東京近郊(東京農工大学FM多摩丘陵:東京都八王子市)で採取されたエアロゾル試料から多環芳香族炭化水素(PAHs)を抽出・精製し、その濃度、組成を詳細に分析した結果、マツ科植物樹脂の熱変性物であるレテン、1,7-ジメチルフェナンスレンが検出され、この地域の大気エアロゾル中PAHの一部がバイオマス燃焼に由来する事が判明した。 そこで、エアロゾル試料から特に高濃度で検出されたPAHを単離し、国立環境研究所の加速器質量分析計を用いた高精度放射性炭素同位体比測定法により分析したところΔ^<14>Cが-514〜-787‰、現世炭素(1950年当時の植物由来シュウ酸と同等の^<14>C含有量をもつ炭素)の含有率(pMC、% of modern carbon)が21〜46%の範囲であることが明らかとなった。これは、バイオマス燃焼の寄与率に換算すると17〜45%に相当し、エネルギー受給割合におけるバイオマス/化石燃料比(〜2%)に比べて著しく高い数値である。調査地域である東京都八王子市で、主要なバイオマス燃焼起源として挙げられるのはゴミ・下水汚泥の焼却であるが、上述の結果は、これらのバイオマス燃焼起源からのPAHの排出係数が化石燃料燃焼に比べて著しく高いことを示している。 さらに、本研究で明らかとされた大気エアロゾル中PAHの放射性炭素同位体比は、冬期における大気中PAH濃度の増大に対して、バイオマス燃焼が重要な役割(〜27%)を果たしていた事を示唆しており、PAHによる大気汚染レベルを制御するためには、化石燃料燃焼起源だけでなく各種のバイオマス燃焼起源からの放出をも抑制することが重要であることが判明した。
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