研究課題/領域番号 |
15310027
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
丸田 恵美子 東邦大学, 理学部, 助教授 (90229609)
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研究分担者 |
長谷川 雅美 東邦大学, 理学部, 助教授 (40250162)
上田 正文 奈良県森林技術センター, 主任研究員
関 剛 独立行政法人森林総合研究所, 東北支所, 主任研究官 (40353742)
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キーワード | 森林限界 / 高山帯 / 亜高山帯 / Pinus pumila / Abies mariesii / 水分ストレス / 光合成 / エンボリズム |
研究概要 |
本研究は冬季の積雪量に傾度をもつ中部山岳域の森林生態系に対して、気候温暖化による冬季の積雪量・積雪期間の減少が、どのような影響を与えるかを予測するための知見を得ることを目的としている。2年目にあたる本年度は、下記のことが明らかになった。 (1)太平洋側にあって、冬季の積雪量が少なく乾燥の厳しい富士山の森林限界において、シラビソ(Abies veitchii)の更新を調査した。常緑葉のシラビソは冬季に土壌と幹が凍結するため、クチクラ蒸散で葉から失われる水分の供給が困難である。成木は、幹に多量の貯水をもつため、時折訪れる風が弱く晴れた日に一部の水が融解し、それが葉に移動して、失われた葉の水分を補うことができた。しかし稚樹では、幹が細く貯水量がわずかであるため、葉から失われた水分量を補うことができずに、春までに大量の針葉が枯死した。これを繰り返すうちに稚樹は枯死し、裸地での定着は困難であり、遷移の先駆樹であるカラマツが島状群落を形成した周辺に、守られることで初めて定着できることがわかった。 (2)日本海側で冬季に多量の積雪がある北アルプスの高山帯では、積雪の保護があればハイマツの生育は順調である。稚樹も太平洋側のように乾燥枯死することはなかった。しかし、山頂付近や尾根筋など、特に冬季の風当たりの強い立地では、冬季もハイマツのシュートは露出し、強風によって葉の表層のクチクラ層が破壊され、その箇所から水分が失われ、乾燥枯死することがわかった。しかし、枯死は風上側の葉だけに限られ、シュート本体は土壌凍結が終了するとともに、順調に水分吸収を開始した。そのため風下側の針葉に損傷はみられなかったが、風上側の針葉の多くが越冬毎に枯死することによって、針葉の寿命が短くなり、コストを回収するほどの生産量をあげることができずに、著しく成長が悪く、矯生化した群落しか形成できないことがわかった。さらに登山道をつけるなどの人為的な影響が加わると、枝・幹自体も枯損し始め、ハイマツ群落の衰退が始まる危険があることが示された
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