1無機ヒ素代謝産物であるモノメチルアルソン酸(MMA)、ジメチルアルシン酸(DMA)、トリメチルアルシンオキサイド(TMAO)の肝発がん促進作用と膀胱発がん促進作用の分子生物学的に解析した結果、肝におけるチトクロームp450の総量およびハイドロキシラジカルはMMA、DMA、TMAO投与のいずれの場合も有意に増加した。また、DMA投与膀胱およびTMAO投与肝臓において酸化的DNA傷害の指標である8-OHdGの形成の有意な増加に伴い、細胞増殖能亢進が認められた。さらに、マイクロアレー法を用いた遺伝子発現解析では、異物代謝に関わるPhaseIおよびPhaseII酵素、酸化的ストレス反応遺伝子の発現上昇が認められた。以上により、ヒ素投与により酸化的DNA傷害が惹起し、細胞増殖関連遺伝子の発現亢進により、発がんに至ったと考えられた。 2酸化的DNA傷害修復酵素であるOGG1の欠損マウスおよび野生型マウスを用いてDMAの発がん性を検討した実験では、OGG1欠損マウスにおける肺腫瘍の発生頻度および個数は、対照群に比べDMA^V投与群で有意に増加した。一方、野生型マウスにおいては、肺腫瘍の発生はみられなかった。これらの結果から、DMAはOGG1欠損マウスの肺に発がん性を示し、その機序に酸化的DNA傷害が関与していることが明らかになった。 3 MMAおよびTMAOの2年間発がん性実験で、対照群に比較してTMAO群で肝腺腫の発生が有意に増加したことから、TMAOはラット肝発がん促進作用のみならず、肝発腫瘍性も有することを明らかにした。一方、MMAの単独投与は膀胱の粘膜の過形成と肝臓の前がん病変のマーカーであるGST-P陽性細胞巣を増加させるものの、腫瘍を誘発しないことが判明した。 以上より、ヒ素発がんには酸化的DNA傷害の惹起が主な原因であるが明らかとなり、それの発生を防御することによりヒ素発がんを予防する可能性が示唆された。本研究課題の成果はヒ素発がん機序の解明のみならず、ヒ素発がんの予防にも寄与するものと期待される。
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