研究概要 |
昨年の研究では木質系廃棄物から生分解性のウレタン発泡体を合成し、生成物はプラスチック発泡体の3大用途(断熱材、緩衝材、吸音材)の1つである断熱材として有効であることを確認した。今年度は、熱伝導率を更に低くし断熱性能の向上を試みた。本製品は、独立気泡であり結露を起こさない構造になっていると同時に、防湿防水に関しては従来の断熱材を上回る性能を有している。独立気泡分散型多孔質体の熱伝導度は、空隙率と材料固有(マトリックス)の熱伝導率の関数で表示される項と,気泡径と封入ガスの熱伝導率で表示される項の和で表示される。本研究では発泡剤として水を使用しており,イソシアネートとの反応によって生ずる反応ガスは固定されているので、断熱性能を改善するためには、空隙率の増大、気泡径の減少、材料固有の熱伝導率の減少に絞ることが出来る。生成物は液化木材を原料にして、ウレタン結合と尿素結合の両者のハイブリッド型の結合からなっており、しかも尿素反応によって生じる炭酸ガスが気泡となっている。ウレタン反応と尿素反応が同時に進行するため、両反応の反応速度がうまくバランスの取れた条件を確立することが要求される。また、発泡プラスチックは、原理的に気泡を均一、微細、安定に発生させ、これを破泡することなく、冷却,固化することによって得られる。そのためには、起泡を助ける液化木材の表面張力を低くすること、並びに反応に直接関与する液化木材の粘度の調整と反応温度とのマッチングが要求される。以上の事項を考慮して、液化木材にエタノールを添加し、液化物の粘度をイソシアネートと同程度に減少させて反応を均一化させ、また水酸基価を高めることにより、ハイブリッド結合に占めるウレタン結合の割合を変化させることを試みた。エタノール添加により、液化物の表面張力が低下するため起泡を助けることが期待できる。合成物の物性を調査した結果、反応温度は100℃が最適であり、熱伝導率を低く保つためには特に気泡を均一、微細にすることが、重要であることが明らかになった。即ち、エタノール添加によって空隙率、固体固有の熱伝導率に顕著な変化は認められなかった。得られた生分解性発泡体は、熱伝導率0.038W/m・K,引張応力0.61MPa、圧縮応力0.79MPaであり、断熱材とし評価できる機能を有している。また、材料強度は発泡スチロールを遥かに上回っており、ウレタン発泡体と同等の強度を示すという興味ある結果が得られた。 以上、合成された発泡体は断熱性能、強度共に十分に評価できると同時に、従来の産業廃棄物であった断熱材を一般廃棄物として取り扱うことが可能となるので、環境に優しい資源循環材料としての有用性が確認された。また、廃棄系木材を成分利用することにより炭素を50〜100年間固定化することが可能になり、これまでバランスの取れていなかった炭素循環収支への貢献度が十分に評価される。
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