地球温暖化や乱開発による環境破壊や、世界人口の加速度的増加による食糧危機を解決するためには、熱帯雨林などにおける植生の回復と農業生産拡大が必須である。そこで本研究では、多様な環境条件に適応して進化した水生藻類の優れた環境ストレス応答機能に着目し、これを高等植物に導入することにより、実用にたえる強力なストレス耐性を持つ植物の作出を目指すものである。 本年度は、まず緑藻Dunaliella tertiolectaにおける重金属抱合ペプチド、フィトケラチン(PC)の生合成調節機構について検討を行った。その結果、本株においては一般にPC合成を最も強く誘導することが知られているカドミウムよりも、亜鉛で処理した場合に最大のPC合成量が得られることを明らかにした。この場合、有害なカドミウムではなく、亜鉛を誘導剤として重金属解毒能や活性酸素消去能を持つPCを大量に合成できることから、重金属耐性植物や重金属高濃縮能を持った植物、さらには酸化ストレス耐性物を作出する上で、非常に優れた特性と言える。 次に、高等植物のストレスホルモンであり、環境ストレスに対する種々の応答反応を誘導することが知られているアブシジン酸(ABA)について、Chlamydomonas reinhardtiiを材料として、緑藻における機能を解析した。その結果、ABAはC.reinhardtiiにおいてもストレス応答反応のシグナル物質として機能するが、これによって誘導されるのは、抗酸化酵素の活性上昇など、酸化ストレスの緩和反応に限定されるものであることを明らかにした。
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