地球温暖化や乱開発による環境破壊や、世界人口の加速度的増加による食糧危機を解決するためには、熱帯雨林などにおける植生の回復と農業生産拡大が必須である。そこで本研究では、多様な環境条件に適応して進化した水生藻類の優れた環境ストレス応答機能に着目し、これを高等植物に導入することにより実用にたえる強力なストレス耐性を持つ植物の作出を最終的な目標とするものであり、その基礎情報獲得のために、水生藻類と高等植物のストレス応答反応について、遺伝子および機能タンパク質レベルでの比較解析を行う。 本年度の研究実績の概要を以下に示す。 (1)重金属抱合ペプチド、フィトケラチン(PC)の生合成調節機構について昨年度に引き続き検討を行った。ラン藻Nostoc sp.PCC7120のPC合成酵素様タンパク質と高等植物シロイヌナズナのPC合成酵素(AtPCS1)を、これらをコードする遺伝子配列および組換え大腸菌から得たタンパク質の機能の比較解析を中心に行い、本酵素の活性には、N末側の領域とそこに存在する5個のCys残基のうち70番目の1個しか必要ないことを始めて明らかにした。 (2)高等植物において環境ストレスに対する種々の応答反応を誘導することが知られているアブシジン酸(ABA)について、昨年に引き続き、ラン藻における機能を解析した。その結果、ABAはラン藻には微量存在するものの、環境ストレス応答反応のシグナル物質として機能せず、また生合成系も存在しないことが明らかとなった。ラン藻に強い光を照射すると、ラン藻ではこれまでに発見されていない、ABA生合成の前駆体であるカロチノイドが酸化的に分解したと考えられる物質が微量検出されたことから、ABAは、カロチノイドあるいはその誘導体の非酵素的光酸化ストレス応答反応の副産物として生成される可能性が示唆された。これは、ABAのシグナル物質としての分子進化を考察する上で、非常に有意義な結果である。
|