研究概要 |
溶存酸素の不足することの無い水深帯に護岸付帯式の床を設け,そこに堆積物食生物をはじめとする多様な生物の定着を促し,滞りの無い物質循環を形成させることを目的とする.実験プラントの形状はL字型をしており,その底面は夏季に発生する貧酸素の影響を受けない高さ,DL-0.5m, DL-1.0m, DL-1.5mにそれぞれ3基(以下,type A, B, C)設けた. (1)夏季の貧酸素化 DOは夏季において2003年の夏季にはtype BCの水深帯であるD.L.-1.0m以深でも貧酸素化の基準である3.5mg/lを下回ることがあった. (2)生物多様性と堆積物食生物 堆積物食生物の個体数や種類数は一年を通じてプラントが既設護岸よりも概ね高い傾向にあった.これは底部に生物の定着を促すPCなどの部材を用いたことやDOの豊富な水深帯に底部を設けたことが要因であると考えられる. (3)ムラサキイガイの摂餌,排泄および脱落に伴う物質循環 既設護岸の単位幅壁面上のムラサキイガイ個体群は527.57gC/dayを摂餌し,318.65gC/dayを排泄しており,type Cでは336.02gC/dayを摂餌,202.96gC/dayを排泄している結果となった.しかしエコシステム護岸の設置によって排泄物由来の汚濁負荷を64%削減し,ムラサキイガイの脱落量の約56%を受け止めていた. (4)尼崎港の環境改善効果の試算 沈降物の酸素消費速度から尼崎の港湾全体で考えると,護岸近傍を除く水域では沈降物によって131kgO_2/dayの酸素が消費されるが,護岸近傍では全沈降物の酸素消費量の17%に相当する27kgO_2/dayの酸素消費が生じていると推定された.エコシステム護岸はこの有酸素層で活性の高い酸素消費物質を一旦受け止め,そこで好気分解や堆積物食動物などの餌として利用させ,海底付近での激しい酸素消費を防ぐという考えである.実測すると1.96gO_2/m^2/dayの酸素消費速度に対し,2.76gO_2/m^2/dayの一次生産があり,エコシステム護岸の床付近の表層部では酸素収支は足りており,かつ海底部での沈降物由来の酸素消費量の17%を削減することができると言える.
|