研究概要 |
本研究は,有機体炭素/窒素の比が極端に低い大量の排水に対する窒素除去技術として,有機炭素源を用いる従属栄養細菌に代わり,硫黄粒子を電子供与体とする独立栄養細菌を用いたプロセスの確立を目的としている。また,発展途上国でも適用できるよう,簡易な除去装置をも目指している。本年度の研究により,下記の結果を得た. 1.安価で効率的なアルカリ度供給材の検討 簡易型処理を念頭に置いた安価なアルカリ度調整用素材として,試薬の炭酸カルシウム,石灰石,製鋼スラッグ,及びサンゴの4種類を検討した。これらの中では炭酸カルシウムが最も高い調整能を示したが,石灰石とサンゴもそれに準ずる高い能力であった。製鋼スラッグの調整能は低く,実用に適さなかった。 2.独立栄養硫黄酸化細菌による脱窒反応に必要なアルカリ度供給法の検討 最も安価で効率的と考えられる石灰石と電子供与体の硫黄粒子を混合充填したカラムを用い,長期間の脱窒操作を行った。最初高かった脱窒活性は操作日数とともに徐々に低下していった。当初リンの不足が原因と考えたが,検討の結果,脱窒反応で消費されるアルカリ度の不足が原因と判明した。アルカリ度の補給は石灰石表面からの溶出でまかなっていたが,徐々に表面に析出する硫酸カルシウムやリン酸カルシウム(電子顕微鏡で検出)により溶出が妨げられる現象が起こっていた。そこで,硫黄と石灰石を溶融して同一粒子としたところ,安定したアルカリ度の供給と高い脱窒能を達成できた。 3.鋼材硝酸洗浄排水の連続処理 鉄鋼工場からの鋼材硝酸洗浄排水はかなりの鉄分に加えてニッケル,クロムなどの重金属およびフッ素イオンを含んでおり,そのままでは生物反応に対する阻害作用が懸念された。そこでこれらの成分が微生物活性に及ぼす影響を調べたところ,ニッケル以外は含有濃度範囲で大きな影響はないと考えられた。なお高濃度の重金属が含まれることもあるが,その場合は凝集沈殿操作である程度除去した後,生物処理を施すことが望ましい。 4.負荷変動に対する処理装置の応答解析 負荷変動は調整槽を設けて緩和することも可能であるが、負荷変動に対する処理装置の応答を調べておくことが必要である。そこで,阻害成分を含まない人工排水から硝酸洗浄排水に切り替えた際の過渡応答を調べた。人工排水では流量負荷を上げた場合一時的に脱窒能が低下するものの,徐々に復活した。一方人工排水から実排水に切り替えると,脱窒能の低下と亜硝酸態窒素の濃度上昇が観測された。解析の結果,実排水中に含まれる阻害成分が反応を抑制したためと推測された。
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