本研究では、有機分子のバルク固体を粉砕することによってナノ粒子化する新しい手法として、液中レーザーアブレーション法に注目した。ナノ粒子の生成機構の解明を通して本手法を有機ナノ粒子作製技術として確立させることを目的に、色素などのπ電子系分子について、サイズが10nmのナノ粒子の作製を目標に研究を進めた。 本年度は、有機顔料として良く知られているフタロシアニンやキナクリドンについて、レーザー照射条件(波長、エネルギー、パルス幅)と生成ナノ粒子のサイズの関係を検討した。水中に懸濁させた有機微結晶(大きさ数μm)に高強度パルスレーザーを照射し、ナノ粒子コロイド分散液を作製し、その吸収スペクトルならびに電子顕微鏡観察により生成したナノ粒子の内部構造とサイズを評価した。レーザー光源にはナノ秒エキシマーレーザー(351nm)、ナノ秒YAGレーザーの第2高調波(532nm)、およびフェムト秒チタンサファイアレーザー(300nm)を用いた。その結果、いずれの化合物とも、励起レーザーパルス幅が狭いほど粒子のサイズは小さくなり、パルス幅30nsでは平均粒子径は60nm、パルス幅200fsで平均粒子径約15nmとなった。10nmサイズの有機ナノ粒子は、従来の機械粉砕法等で作製することが困難であり、液中レーザーアブレーション法が有効な手法であることが示された。また、このサイズに対する励起レーザーパルス幅依存性が光熱機構に基づく有機固体のアブレーションで定性的に説明することが出来ることを示した。さらに、キナクリドンのナノ粒子作製において、生成したナノ粒子の吸収スペクトルがレーザー波長および強度に依存して変化することを見出した。このことは、ナノ粒子作製と同時にその結晶構造をレーザー照射条件で制御できることを示している。
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