研究概要 |
研究初年度にあたる本年度は、研究を推進するための主要な装置である超高真空対応STM観察室および試料成長室の整備とその動作点検と、bccCr(001)薄膜を研究対象として研究を行った。昨年3月末にこれらの装置の移設が完了したのち、超高真空への排気、STMの動作確認、Au(001)清浄表面の確認作業を7月までに完了させた。現在までに得られている到達真空度はSTM観察室および試料成長室でそれぞれ2×10^<-11>,5×10^<-11>Torr以下であり、本研究を推進するに必要な真空度は十分に得られた。 次にAu(001)清浄表面を用いて、Cr(001)清浄表面の作製とスピン偏極トンネル分光法による磁気像の観察を行った。原子レベルで平坦かつAuの表面偏析を抑制したCr(001)薄膜を作製する必要がある。LEED/Auger, STM観察を用いて成長条件を最適化した結果、最初の2nmはCrを室温で成長させたのち、基板温度300℃でさらに2nm成長させる、2段階成長が最適であることを見いだした。最適化された成長法を用いて作製したCr(001)薄膜表面のdI/dVスペクトルではフェルミ準位近傍(-60mV)に明瞭なピークが観測された。これはCr(001)清浄表面に特有なスピン偏極表面準位によるものである。強磁性探針(W探針にFe薄膜探針)を用いると、dI/dVのピーク強度が1原子層異なるテラスに違いがあることが観測された。これは各テラスでの磁化が反平行状態であるためにトンネル磁気抵抗効果によって生じていると解釈される。この様にスピン偏極表面準位を反映したバイアス電圧で強磁性探針を用いたdI/dV像から磁気像を得ることに成功した。
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