研究概要 |
本研究は、表面での自己組織化膜と錯形成を利用した機能性ユニットの逐次積層化により電位傾斜をコンビナトリアル化学の手法で自在にコントロールし、表面での電子移動方向の制御ならびに外部刺激応答性をもつ表面ナノ積層構造を作製し,高効率なエネルギーおよび情報変換デバイスの確立を目指している.初年度に続き、2年目の本年度は、中心金属としてルテニウムおよびオスミウム、アンカー基としては四脚型ホスホン酸基を有する三座配位子をもつ単核および二核錯体を、固体表面上で任意の順番に組み合わせて,多積層錯体膜を作製した。マイカ基板上に8層積層した膜の断面TEM像からきれいに30nmで均一に積層されている様子が観測され、分子が基板から垂直に立っていると考えた場合の予想される高さに近い値となった。錯体の酸化電位はRu>Osであり、また二核錯体の方が高電位側で酸化される。これらの酸化電位の違いは固体表面からの順番を変えることで電位傾斜を任意に変化させることで、電位勾配による電子の整流作用を付与することが可能である。さらに、最外層にプロトン共役電子移動可能なビス(ベンズイミダゾリル)ピリジンをもつ単核錯体を用いて、表面からITO電極‖Ru-Ru(二核)‖Ru(単核)の構造をとる二層積層膜において、pH誘起の分子スイッチを構築した。溶液のpHを変化させて電気化学測定を行うと、pH上昇に伴い、低電位側のRu(II/III)酸化波がより負電位側にシフトするとともに二層間のポテンシャル差が増大し、電子移動がブロックされるために最初可逆的に見えた低電位側のRu(II/III)酸化波の還元ピーク電流値が減少し最外層にRu(III)が蓄積されることがわかった。さらに、Ru二核錯体の3積層膜とヘキサシアノ鉄(II)酸イオンとの触媒的酸化反応について回転ディスク電極法を用いて検討し、膜との間の電子移動速度を決定することができた。さらには、ITO電極上に積層したRu二核錯体膜の光電変換能について検討したところ、トリエタノールアミンを犠牲剤として用いた場合にはアノード電流が観測され、4層目までは電流値が増大することを見出した。しかし、4層目以上では飽和となることがわかった。 また、ホスホン酸基を有する四脚型三座配位子をもち、さらにDNAインターカレーター基をもつ単核Ru錯体を合成し、マイカ基板上でDNA固定化を検討したところ、表面固定された錯体によりDNAが表面に固定されることがわかった。
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