研究概要 |
本研究の初年度である16年度の実績は以下の通りである。 (1)水素終端型磁気的ナノグラファイト素片の電子状態計算: グラフェンのジグザグ端にある炭素に水素を2つ結合させることが炭素のπ電子ネットワークにπ的な軌道を一つ導入することになる。この水素付加の結果、π電子系にフェリ磁性的スピン配列による磁気モーメント発生が得られるという、水素付加によるナノ炭素構造改質法を応用して、磁気的ナノグラファイトの設計を行った。その例として1,8,9-ジ・ハイドロ・アントラセンなどの高スピン分子が設計できることを第一原理的電子状態計算法により示した。この結果は国際会議ISIC-12(ポーランド)で発表し、論文1編にまとめた。また、水素付加に加えて、端のフッ素付加、部分的酸化によっても磁気モーメント発生が起こることを示し、磁気的ナノグラファイト合成法の理論として論文1編にまとめた。 (2)水素終端型磁気的ナノチューブ・磁気的ナノホーンの電子状態計算: 同様の水素付加の方法は、磁気的ナノチューブ・磁気的ナノホーンの設計も可能とする。その例として、有限長ジグザグナノチューブの端を改質することで磁気的ナノチューブが得られることを第一原理的電子状態計算法により示した。また、この水素付加による方法がハバード模型におけるリープ定理による磁性と関連すること、及び平坦バンド強磁性として磁性出現があると解釈可能なことを示した。この結果はICM2003(イタリア)で発表し、論文1編にまとめた。また、(1)の結果と合わせた総合報告として固体物理誌に報文1編を掲載した。 (3)グラファイト・ダイヤモンドハイブリッド系における磁気的性質の予言: 当初計画が終了したため、次年度以降の計画内容を前倒しで開始した。水素付加構造に加えて、sp^2結合とsp^3結合の混在系においても類似の磁気構造を見出せる。そのような系として、ダイヤモンド表面にグラフェン構造を垂直に接合したグラファイト・ダイヤモンドハイブリッド系を考察し、ハーフメタリックな表面電子状態が現れることを示した。この結果は、日本物理学会第59回年次大会で発表の予定である。 (4)電子状態計算手法トランスコリレイティッド法の開発 電子相関をあらわにとりいれた多体波動関数を用いて基底状態の全エネルギー計算を行うトランスコリレイティッド法の開発を行い,論文2編にまとめた。またナノ炭素磁性体への適用を検討した。
|