量子化学計算による電流検出型DNAチップの特性解析

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15310088
• 研究種目: 基盤研究(B)
• 研究機関: 豊橋技術科学大学
• 研究代表者: 栗田 典之 豊橋技術科学大学, 工学部, 助教授 (40283501)
• 研究分担者: 伊藤 聡 東芝, 研究開発センター, 主任研究員(研究職) ; 田中 成典 東芝, 研究開発センター, 主任研究員(研究職)
• キーワード: DNAチップ / 電荷移動 / 量子化学計算 / 電荷平衡法 / DNAミスマッチ / 密度汎関数法 / フラグメント分子軌道法 / フロンティア分子軌道

研究概要

(1)生体高分子に適用可能な高精度電荷平衡法を開発し、分子軌道法の結果を再現するように電荷平衡法のパラメータを高精度化した。本手法は、従来の電荷分布を固定した分子力場法よりも高精度に生体高分子の安定構造及び電荷分布を解析することができる。
(2)上記の手法を用い、DNA中を電荷が移動した際のエネルギーと電荷分布の変化を解析した。実験で電気伝導特性が得られているミスマッチのあるDNA鎖について解析を行い、実験結果と定性的に一致する結果を得た。今後、電荷移動過程でのDNAの構造緩和まで考慮した解析を行い、実験結果を定量的に評価し、その結果に基づき高性能DNAチップの提案を行う。
(3)DNAのような生体高分子の電子状態を第一原理に基づき高精度に解析する目的で、フラグメント分子軌道法(FMO)と密度汎関数法(DFT)とを組み合わせた量子化学計算手法(FMO-DFT法)を開発し、2重鎖DNAに対して従来のDFT計算の結果を再現できることを検証した。
(4)上記のFMO-DFT法を用い、ミスマッチのあるDNA鎖の電子状態(特に、電荷移動に関与するフロンティア分子軌道のエネルギーレベルと空間分布)を解析し、ミスマッチ導入により、DNA中の電荷移動特性がどのように変化するかを明らかにした。
(5)(4)の結果に基づき、DNA中の塩基対のサイトエネルギー、隣り合う塩基対間の電荷移動積分を見積り、電流・電圧特性を解析するシミュレーターの入力パラメータを作成し、特性を解析した。現段階では、実験結果を定量的に説明できるまでには到っていないが、今後、パラメータの高精度化を行い、実験結果を定量的に説明し、ミスマッチの影響を明らかにする。

研究成果

• [文献書誌] Okada, A., Yokojima, S., Kurita, N., Sengoku, Y., Tanaka, S.: "Charge Transfer in Duplex DNA Containing Mismatch"Journal of Molecular Structure. 630. 283-290 (2003)
• [文献書誌] Ogawa, T., Kurita, N., Sekino, H., Kitao, O., Tanaka, S.: "Hydrogen Bonding of DNA Base Pairs by Consistent Charge Equilibration Method Combined with Universal Force Field"Chemical Physics Letters. 374. 271-278 (2003)
• [文献書誌] Kurita, N., Sengoku, Y., Sekino, H.: "Electronic Properties of DNA Binding Site in Transcription OmpR Family : Semiempirical Molecular Orbital Calculations"Chemical Physics Letters. 372. 583-589 (2003)
• [文献書誌] Kurita, N., Inoue, H., Sekino, H.: "Adjustment of Perdew-Wang Exchange Functional for Describing the Van der Waals and DNA Base-stacking Interactions"Chemical Physics Letters. 370. 161-169 (2003)
• [文献書誌] 田中成典, 福澤薫, 中野達也, 栗田典之: "DNA鎖の第一原理計算の現状と将来"表面科学. 24. 664-670 (2003)
• [文献書誌] 夏目貴行, 仙石康雄, 栗田典之: "ミスマッチのあるDNA二重鎖の電子状態計算"Journal of Computer Aided Chemistry. 4. 42-51 (2003)