研究概要 |
透過電子顕微鏡に組み込まれた電子エネルギー損失分光法を用い、有機薄膜の状態分析を行った。電子受容体として知られている7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)とそのフッ素誘導体(F_4TCNQ)に関する吸収端微細構造(ELNES)の測定と理論解析を行った。分子内の独立な炭素位置にそれぞれ内殻ホールを導入し、分子内でサイト分解したスペクトル計算を行い、ELNES中の各ピークの帰属を行うと同時に、フッ素置換による電子構造変化を明らかにした。内殻ホールを導入した第一原理計算は励起サイトが明確になるため、位置分解スペクトルの解釈においては有用である。ELNESの理論解析の一環として、第一原理バンド計算に立脚した内殻ホール効果の検討も行った。 また、電子線照射による有機結晶における損傷のメカニズムを検討するために、ELNESの変化を詳細に検討した。ハロゲン原子で置換された一連の金属フタロシアニン薄膜に対し、ハロゲン置換の効果を調べた結果、塩素や臭素で置換した場合は電子線照射に対して強くなるのに対し、フッ素で置換した場合は顕著な違いが見られなかった。このようなハロゲン置換の効果はハロゲン元素のサイズと結晶内での分子パッキングの違いによるものと解釈された。 一方、角度分解EELS法の有機結晶性薄膜への応用として、基板にエピタキシャル成長した平面有機分子の配向を決定する新しい手法を見出した。平面有機分子から測定される炭素K殻ELNESには分子平面の面外に指向した1s→π*ピークが現れるが、その強度の2次元角度分布をエネルギーフィルター電子顕微鏡法により測定することにより、分子の傾斜角度、傾斜軸方向を決定できることが明らかにされた。この方法は塩化フタロシアニン銅薄膜に適用され、これまで未解決であった分子配向関係を決定した。
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