研究概要 |
有機磁性体への関心が高まり、強磁性転移する有機結晶が報告されるに至ったが、それらはいずれも偶発的に見出されたものである。平成15年度においては、水素結合連鎖間の配列様式が制御可能なラジカル誘導体の合成研究、構造-磁性相関を研究目的とした。具体的には、分岐水素結合により集積したナノ棒磁石どうしの配列様式を合成化学的に制御するために、ベンゾイミダゾールの5-または6-位に、イオン半径の異なるハロゲン(F,Cl,Br,I)を1つまたは2つ導入した一連の誘導体を合成することができた。生成ラジカルの安定性が高く、様々な条件下で結晶を作成することが可能であった。モノハロゲン化した誘導体(F,Cl,Br)では、bemzimidazol-2-yl nitronyl nitroxide(BIm-NN)と同様の機構で強磁性的相互作用を発現しナノ棒磁石としての特性を示した。さらに導入ハロゲン原子がナノ棒磁石間の磁気的な相互作用に影響を及ぼすことを明らかにすることができた。ONCNO部位のニトロキシド酸素とsp^2炭素間の距離dc【triple bond】oと強磁性鎖モデルから見積もられた磁気的相互作用の大きさJ値の間に明らかな相関を見出すことに成功した。一方、ジハロゲン置換体では、導入ラジカル種に大きく依存した磁気特性を示し立体効果の影響が顕著であった。 連鎖間でのベンゾ環同士のπ-π接近が可能なベンゾ環を環拡張した誘導体を合成しその磁気特性を詳細に検討した。この誘導体では、BIm-NNとは異なる接近様式で水素結合鎖を形成し、1次元的な反強磁性的相互作用を示した。 このように、NH複素環構造を有するNN誘導体を系統的に合成し、水素結合サイトとスピン中心を含むHNCCNO(NO)部位が、結晶中におけるナノ棒磁石の組織化および分子間磁気的相互作用の発現に極めて有効な"超分子シントン"となることを結晶工学的に明らかにした。
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