研究概要 |
ここ数年、分子スケールの電子素子の開発に向けた研究に興味が持たれ、電極-分子-電極システムの構築とその電気特性の測定が盛んに行われている。電極と分子の接合様式が電気特性に与える影響は極めて大きく、安定な接合界面の形成の重要性が認識されている。有機分子を組織化し、その電気特性を計測する「素材」として、金基板上でのチオール分子の自己組織化膜(SAM)が最も精力的に研究されてきた。金と硫黄原子の親和性のよさを利用したものであり、分子スケールエレクトロニクス素子の構成要素を設計する上での重要な指針となっている。しかしながら、このいわゆる金-チオール系は,界面の結合様式が不確かであり,また分子を特定の場所に選択的に固定することが難しいなどの問題がある。金-チオール系の電気的特性に関して、再現性のある実験結果を得るためには、安定な界面の構築が不可欠であることが指摘されている。安定な界面の構築法のひとつとして、半導体と分子を共有結合で結ぶ方法が考えられる。特に炭素と同じIV族のシリコンやゲルマニウム結晶表面と炭素の結合生成は表面科学やナノサイエンスの観点だけでなく、新しい有機化学の展開としても興味がもたれている。 本研究では、水素終端シリコン(111)面を基板とし、末端に2重結合を有する分子をウェットプロセスで反応させ、その配向や熱的安定性を、内部多重反射赤外分光法により明らかにした。まず、分子は、全トランス型の梱フォーメーションを基本とし、約400℃程度までは、その構造を維持することがわかった。また、フッ化アンモニウムをはじめとする薬品に浸しても、劣化を見ないことが明らかとなった。現在、シリコン上の分子組織体に対して、走査プローブ顕微鏡を用いた電気特性の計測を行っている。
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