本研究の目的は、微小Josephson接合の1次元配列を静電容量によって2本結合させた素子において、研究代表者が見出したCooper対の帯電効果に基づく直流電流の転写現象(量子電流ミラー効果)の研究を進展させることである。特に、この効果の物理的な機構を明らかにすること、また、この効果が素電荷レベルでの相関効果であることから、微小電流の高精度転写や増倍への応用可能性を探ることが目標である。 研究代表者は、平成15年度に現在の研究機関である電気通信大学に着任したため、交付申請書の研究実施計画に記したように、今年度は、1)本学設備を使って素子を作製するプロセスを確立すること、2)この効果の測定に用いる希釈冷凍機を使った低温実験設備と微小電気信号の低雑音計測設備を立ち上げること、3)1)2)の準備のもと素子を作製し量子電流ミラー効果を実現すること、4)応用の第一歩として電流2倍器を作製するため、その計測用の3回路同時計測回路を作製することを行った。さらに、5)電流2倍素子の試作も行った。 観測した量子電流ミラー効果は、Josephson接合1個についての帯電エネルギーE_C=81μeV、Josephson結合エネルギーE_J=16-18μeV、接合容量C=0.99fFで、21接合をもつ1次元配列からなり、結合容量C_C〜50aFの素子で見出され、最大ミラー電流は6pAであった。なお、このときの測定温度は120mKであった。この結果は、これまでに量子電流ミラー効果の観測された素子の系列に、素子パラメータ、最大ミラー電流とも合致し、この現象が素子パラメータにより一意的に決まることを示唆する。それとともに、本研究が順調な滑り出しを見せたことを物語っている。
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