原子力安全規制を例に、わが国及び欧米の安全規制システムの現状と動向について調査した。米国では安全規制に関する連邦法や規制指針は性能規定化されており、具体的な仕様規定は民間技術基準を連邦法や規制指針で引用して用いている。欧州(フランス)においても規制に関する法令はほとんど性能規定化されており、具体的な技術基準を定めるのは事業者の責任であるとされている。これに対し、わが国では法律の下位に省令や告示があってこれらが細かな技術基準を定めており、性能規定化はまだ進んでいない。技術進歩に安全規制が機動的に適応して行くためには、法令の性能規定化と民間技術基準を引用するための制度の整備が必要である。 また、事業者の保安活動が技術基準を満たしているかどうかを検査する体制についても、米国では第三者機関が検査機関や検査員の認定・認証を行っており、規制機関の検査官に対する教育訓練、資格認定のプロセスはよく公開されている。欧州においても、EU指令に基く検査機関、検査員の認定・認証制度が整備されている。これに対して、わが国では認定・認証制度が十分に確立されておらず、規制行政当局やその担当者の技術的能力に対する認定・認証も曖昧である。 つぎに、安全規制システムの評価を行うための社会シミュレーションを提案した。シミュレーションモデルは企業を単位とするマルチエージェントシステムであり、多数の企業が与えられた条件下で進化しながら生産活動を行う。各企業は事業リソースを生産活動と安全管理に分配し、その結果によって設備の稼働率と信頼性(事故確率)が決る。 さまざまな安全規制スタイルを環境条件としてシミュレーションを実施したところ、事後制裁は生産効率向上を促進することがあること、仕様規定型規制は意図と逆の結果を生む可能性があること、途中で規制を撤廃すると信頼性は劣化すること、間隔の長い定期検査よりも抜き打ち検査の方が効果的であることなどがわかった。
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