研究概要 |
大気中に拡散したSPMや火山ガスを採取する方法の一つとして,アルカリ水溶液静置法がある.この方法では,SPMや火山ガスを放出する火口付近で,強アルカリ性水溶液を容器に入れ大気に開放し,一定期間放置した後,水溶液を回収・分析する.今年度の研究では,硫黄を含むガス(SO_2,H_2S)がアルカリ水溶液に吸収される際の同位体分別を調べるための室内実験を行った. 実験の結果,KOH水溶液に吸収されたSO_2,H_2Sガスの同位体比は,いずれも空気中に残存するガスよりも低く,それぞれ1.0〜2.1‰,4.0〜6.1‰の分別が見られた.KOH水溶液に対するガスの単位面積流入速度(mol sec^<-1> m^<-2>)をガスの空間密度(mol/m^3)で割った値は速度の次元を持ち,ガスが水溶液に吸収される際のガス分子の平均移動速度と考えられる.バッチ式実験ではこの速度は,0.18〜1.9cm/secであった.空気を撹拌した場合,値が増加したので,平均移動速度は空気と水面の擾乱の大きさに相関すると考えられる.SO_2,H_2Sガスいずれも平均移動速度が小さいと分別係数が減少し,大きいと増加した.平均移動速度が大きい場合の分別係数は分子運動速度の差に起因する理論的な分別係数と一致した.フロー式実験では,SO_2の移動速度が0.6cm/secと小さいにも拘らず,分別係数は理論的な分別係数とほぼ一致した.SO_2ガスを純水に吸収させた実験では,液相の同位体比は気相に比べて3.1‰高かった.以上の結果は,ガスの平均移動速度が小さく,さらにSO_2濃度が高い場合,空気に接するKOH水溶液の表面でSO_3^<2->の濃集が起きたと仮定すると合理的に説明される.このような条件において,SO_2ガスが一方的に液相に移動する状態は崩れ,わずかながらSO_2の分配に関して気液平衡状態に近づく.そのため平衡状態の分別効果が分子運動速度の差に起因する分別係数に加算され,観測される分別係数の絶対値は減少すると考えられる.
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