真核生物ペプチド鎖解離因子eRF3のX線構造決定と高次構造に基づく機能検証を行った。真核生物ペプチド鎖解離因子eRF3は、tRNA擬態性タンパク質であるペプチド鎖解離因子eRF1と結合することで、協調的に翻訳終結反応を遂行するGTP結合タンパク質であり、かつ一方で翻訳終結効率の制御と、細胞内での様々な生理機構を担う因子群との対応を行うハブとして位置づけられる要分子である。解明されたX線結晶構造はGTPおよびGDPの2つのモードに対応するものであり、これらの比較からeRF3がこれまでに明らかにされたGTP結合タンパク質とは異なる新規な機能モードを保持するタンパク質である新事実が明らかになった。また、eRF1との結合領域を高次構造上で推定し実証することで、tRNA擬態タンパク質であるeRF1が、実際にGTP結合タンパク質との相互作用においてもtRNA結合モードを擬態していると言う新知見が明らかになった。 翻訳終結過程におけるリボソーム再生反応に共同で機能する、リボソーム再生因子(RRF)および、伸張因子EF-Gの機能解析を詳細に行った。まず、これまでに明らかにしたEF-GのtRNA擬態領域との相互作用によるRRF機能発現機構に加えて、EF-G tRNA擬態領域によるtRNA転座活性(tRNA translocase)機能との機能相関性をin vivoおよび、in vitroで検証した。tRNA転座活性に著しい欠損を示す点変異(H583K)を導入した変異型大腸菌EF-Gタンパク質は、in vivo、in vitro双方のアッセイ系において全く正常にリボソーム再生反応を触媒することを実証した。tRNA転座反応とRRFとの機能協調性は相関しないというこの新知見はこれまで部分的な実験から提唱されていた逆の趣旨の定説をより強固に覆すものであり、リボソーム再生機構におけるRRFの機能性について新たな方向性を切り開く事となった。
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