本申請者らは、完全重水素化メバロン酸を化学的に調製し、その取り込み実験を行い、生合成過程で導入される軽水素を^1H-NMRで解析するという独自な方法論を開発してきた。これらの成果を背景として、本研究ではこの手法を幅広くイソプレノイド化合物に応用し、イソプレノイド化合物生合成機構解明、生理活性天然物の作用機作解明のためのプローブ調製への展開へと応用することを目的とした。 まず、これまで開発した方法ではラセミ体の完全重水素化メバロン酸を用いていたため、生物はその半分しか利用できず効率が悪かった。そこでラセミ体合成を基盤としてSharplessの不斉エポキシ化反応を鍵とする光学活性な(R)-完全重水素化メバロン酸の合成法を開発した。 イソプレノイド化合物生合成機構解明では、環化機構が未知のであったジテルペン抗腫瘍活性化合物のTerpentecinにつき、完全重水素化メバロン酸の取り込み実験を行い、得られた生成物を^1H-NMRで解析し、その環化機構が椅子型-舟型の立体配座を取り、環化反応が進行し、ヒドリドおよびメチル基の転位を経て、トランス-デカリン環が形成されることを明らかにした。 さらに、非メバロン酸経路の遺伝子を破壊し、メバロン酸経路の遺伝子を導入した大腸菌に、さらにカロテノイド生合成の遺伝子群を有するプラスミドを組み込み、完全重水素化メバロン酸を添加して培養を行った。その結果高度重水素化β-カロテン、リコペン、ゼアキサンチンを得ることが出来た。得られた高度重水素化カロテンの物理化学的な性質を調べたところ、非標識体と比べて、クロマトグラフでの挙動、紫外可視吸収スペクトルが異なるなど興味深い結果が得られた。
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