本年度の予算で購入したPCクラスターマシンを用いて、バクテリアの糖転移酵素遺伝子の系統解析を行った。特に、大腸菌の複数の株で変異が知られている細胞壁外の糖構造を与える糖転移酵素遺伝子群(大腸菌ゲノム中で直列に並んでいる)に着目して、それら20余のアミノ酸配列をクエリーとして相同性検索を行い、遺伝子系統樹を作成した。その結果、気質特異性の異なる数種類の糖転移酵素がひとつの相同群を形成した。これは、長い進化のあいだに、相同性を保ちながらも、一連のアミノ酸が置換することによって、基質特異性が変化していったことを示唆する。そこで、そのうちで大腸菌K12株のゲノムに存在する遺伝子Waal(旧名称はrfal)を選び、適切なプラスミドに挿入してそれを大腸菌に感染させ、この遺伝子の産物を大量発現させた。Hisタグを用いてカラム精製を行い、NMR解析に十分な量が得られた。個体NMR法でそのスペクトルを調べたところ、いくつかの明瞭なピークが観察された。特にラベルしていないので、自然界に少量存在する炭素13のシグナルを計測したことになる。そこで、このタンパク質が本当に糖転移酵素であるならば、基質となる糖(グルコースであると推定されている)が酵素表面の特定の場所に付着するはずである。そこで、炭素13でラベルされたグルコースおよびUDPグルコースを購入し、それらの付加によって、固体NMR法のスペクトルがどのように変化するのかを調べれば、基質が付着する酵素表面の特定の場所が推定できるはずである。来年度(2004年度)はこの方針で実験解析を発展させる。また、国立遺伝学研究所で構築・公開されている、タンパク質の立体構造予測データベースGTOPも用いることによって、この糖転移酵素の立体構造の詳細と基質が付着する酵素表面の特定をめざす。
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