生物の機能を解明するためには、阻害剤を用いて機能発現に必要な蛋白質を同定解析するケミカルバイオロジーの方法が存在する。本課題研究では、有機化学的手法で生命現象を解き明かすために、細胞内情報伝達系の新しい調節物質(バイオプローブ)を創製すること、さらに化学生物学的手法によりその細胞内標的分子(ターゲット)を明らかにすることを目的とし、有機化学と化学生物学を融合したメタボロームおよびプロテオーム解析により以下の研究を行った。 1.標的タンパク質と薬剤との相互作用解析 細胞周期調節タンパク質Weelおよびその部位特異的変異遺伝子を大腸菌で大量発現させ、Weelタンパク質の立体構造解析を行った(継続中)。また、Weelタンパク質の分解には、特定のアミノ酸配列を認識してユビキチン化するSCF複合体が結合することが必要である。SCF複合体が結合するために必要なアミノ酸配列を決定し、さらに、そのアミノ酸部位を細胞周期の進行と連動してリン酸化する酵素としてCDK1、PLK、CKを同定した。これらの酵素によってリン酸化されたWeelがユビキチン化酵素と結合し、その後プロテアソーム依存的に分解されることを明らかにした。 2.タンパク質構造に基づく阻害剤のデザイン これまでの研究で、我々はホスファターゼ阻害剤としてRK-682を見出していたが、今回ヘパラナーゼも阻害することを見出した。ホスファターゼとヘパラナーゼの活性中心の構造を比較検討することにより、RK-682の4位を化学修飾するとヘパラナーゼ特異的阻害剤となることが予測された。実際に、4位にベンジル基を導入した類縁体を合成し阻害活性を測定した結果、Bz-RK-682はヘパラナーゼ阻害剤として優れた特異性を示すことを明らかにした。
|