今日ロシアのイスラーム人口は、公称2千万人に達している。信者数は上昇傾向にあるが、イスラームの復興には、三つの側面、即ちイスラーム教徒人口の自然増、スラブ人改宗者、イスラーム的文化伝統を持つ民族における信者の増加(イスラーム回帰現象)がある。文化的アイデンティティーの一部としての宗教回帰現象においては、宗教はタタルスタンではタタリズム、アゼルバイジャンではアゼルバイジャンストヴォなどの民族文化総体の一部として機能している。ソ連時代イスラーム教の布教が弾圧されていた、タタルスタンではイスラーム化以前の宗教的伝統を汲み込んだイスラーム概念、或いはロシア文化の一部としてのイスラームを求める動きも強い。一方、ソ連時代でもイスラームの影響力が強く残っていたダゲスタンでは、正統イスラームとスーフィズムが結合、伝統的イスラームがそのままの形で強化された。タタルスタンでは、事実上国家機関の一部としての民族=国家宗務庁が設立され、アゼルバイジャンでも、形式的には国家の領域と宗務庁の領域は一致しないにもかかわらず、政府と宗務庁の間に協力関係が成立、政府はイスラーム宗務庁と信者数では全く問題にならないほど少ないロシア正教会との間に論理的にはバランスをとる政策を実施している。どのような人々が過激なイスラーム主義を信奉したのかは、必ずしも明らかではないが、ロシアでは、ヴォルガ・ウラル地方に若い世代に過激なイスラーム主義との接点が見られた。その接点では主として特定のモスク、指導者、および海外イスラーム布教団とのかかわりが見られ、チェチェンにおいては対ロシア関係の深刻化とイスラーム主義の過激化に関係していると観察することができるが、ともに伝統的イスラームの側で宗教教育を把握できなかった状況によって説明される。
|