研究課題/領域番号 |
15310164
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
市川 裕 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (20223084)
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研究分担者 |
手島 勲矢 大阪産業大学, 人間環境学部, 助教授 (80330140)
野村 真理 金沢大学, 経済学部, 教授 (20164741)
沼野 充義 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (40180690)
池田 明史 東洋英和女学院大学, 国際社会学部, 教授 (30298294)
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キーワード | 主権 / 歴史記述 / 民族的自己像 / コスモポリタニズム / ナチス / パレスチナ |
研究概要 |
科研費研究の初年度は、各自の問題意識を明確にし研究を深めることを主たる課題としつつ、平成14年2月に、本年度の締めくくりの研究会合を実施した。これにはほとんどのメンバーが出席し、異なる分野の分担者4名による、思想史、歴史学、国際政治の分野からの研究報告と討論を行った。 担当者の発表内容は、(1)『人間モーセと一神教』をめぐるフロイトの意図と戦間期のコスモポリタニズムの問題、(2)アーリア系配偶者によるユダヤ人迫害への抗議の今日的再評価のもつ意味合い、(3)ナチスの絶滅政策の「恩恵」にたいする東欧諸国の屈折した評価、そして、(4)現代イスラエル問題で、パレスティナの民主的自己統治能力への不信と、いかにしてイスラエルが民族国家としての性格を維持するかという課題が、和平交渉の基底に伏在することの指摘が為された。この結果、20世紀前半の戦間期以降今日までの国際的な紛争状況において、ユダヤ人というエスニック集団が示した自己理解と、外集団の自己理解との力動的関係が重要であるという論点が確認された。 討論によって得られた視座は、近代社会が、一方でnation-stateという主権国家を建設する上でなんらかの民族的自己像を選択していること、それに伴って、その時点での自己像を過去に遡らせて、一貫していたかのような国家・民族史を作成すること他方で、コスモポリタン社会を志向する運動も無視できないこと、そしてこの両方にユダヤ人が関っており、しかもユダヤ人のidentityをめぐるユダヤ人同士の多様性と葛藤とが重なってくることである。それゆえ、民族的アイデンティティをめぐる今後の共同研究は、主権国家の政治的権威と民族的自己像との関わりあい、恣意的な歴史記述が選好されるメカニズムの解明とその恣意性を浮き彫りにすることに向けられる。
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