本研究の目的は最近アフガニスタンおよびパキスタンから発見され、ノルウェーのスコイエン・コレクションをはじめとする海外の機関および我が国の平山郁夫画伯に分割して引き取られた大量の仏教古写本類のうち、平山郁夫画伯のコレクションに含まれる写本類を、スコイエン・コレクションの研究に従事している海外の共同研究者とともに関連資料と比較しつつ解読研究して出版を目指すものである。本年度は平山郁夫画伯のコレクションの全体を撮影して断簡類を書体、内容別に分類し、そのローマ字転写をコンピュータに入力し、海外の共同研究者の協力を得て、順次テキスト校訂に向けた作業を行った。平山郁夫コレクションに含まれる写本類のうち、最も重要な資料はパキスタンのギルギットから発見されたと伝えられるサンスクリット語による長阿含経の写本である。これは説一切有部教団に伝承されたヴァージョンで、漢訳もチベット語訳も存在しない孤本であるが、全体で約450葉より構成されていたと推定され、平山郁夫コレクションはこの中の約50葉を入手し、残りは米国のアダムス・コレクションとスコイエン・コレクションに収蔵された。困難な修復を経て写真撮影を行い、それを基に解読作業を行った結果、これまで不明であった説一切有部長阿含経の内容構成について、全体が3章より構成され、第1章「六経品」が6経、第2章「双品」が18経、第3章「戒蘊品」が23経の計47経が含まれることが判明した点を特筆しておきたい。
|