研究概要 |
昨年度に引き続き、ローマの哲学者Boethius(ボエチウス)の代表作De Consolatione Philosophiae(『哲学の慰め』)を主たる研究対象とし、本作品の各種テクストを文献学的・言語学的観点から検討し、原文と翻訳、翻訳と翻訳などの「間テクスト性」を具体的に考察する作業を進めた。 ラテン語に関しては、『哲学の慰め』のラテン語文体の特徴を分析した。また、P.Courcelle, La Consolation de Philosophie dans la tradition litteraire : Antecedents et posterite de Boece (1967)所収の9世紀の注釈書、および、12世紀のコンシュのウィリアムの注釈書を検討することによって、後世の翻訳に与えた影響、注釈の特徴に窺われる知的風土の時代的な変化について、分析を開始した。 フランス語に関しては、『哲学の慰め』の複数の古フランス語訳がフランスでどのように受容されていたのかを文献学的に調査した。またラテン語の原典からの翻訳の問題を、いくつかの観点(否定形、指示詞・冠詞)において言語学的に対照分析した。 英語に関しては、14世紀のGeoffrey Chaucerよる中英語訳を中心に『哲学の慰め』の英訳テクストを比較検討し、言語的特徴を体系的に分析するための基礎データを整備した。 ポルトガル語に関しては、14世紀末から15世紀にかけて匿名の修道僧によって著された『夫の庭』(Horto de Esposo)に対する、ボエチウスの影響等について検討した。この作品には、様々な先行作品の影響が指摘されているが,特にボエティウスに関連する部分についていくつかを選び,部分的ではあるものの考察した。また、翻訳作品における間テクスト的な影響を、特に言語形式の観点から分析並びに考察するために、『聖杯の探索』(Demanda do Santo Graal)について、Bogdanowのエディションの古仏語オリジナルが存在する部分と中世ポルトガル語テクストを対照し、言語的特徴を体系的に分析するための基礎データを整備した。 なお、本研究を遂行するなかで文献資料を中心に物品購入費が予定よりも必要となり、経費の全額を物品費に充てることになったが、研究環境の充実により本年度の成果をあげることができ、次年度への土台を築くことができた。
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