本研究は計4年間にわたる計画としてスタートし、本年度はその3年目にあたる。前半2年間では比較芸術論の具体的テーマとして「都市と郊外」を掲げ、文学、映画、写真、漫画などのジャンルの相違が、郊外表象にどのような可能性と、(逆には)規制をもたらすのかをつぶさに観察し、リーディングズとして集大成し出版した。(今橋映子編著『リーディングズ・都市と郊外』NTT出版社、2004年12月、総頁520p.) 本年度から計画後半に入り、この研究進行の中で浮上してきたのは、一人の芸術家の中でジャンルを越境するという現象について、理論的考察が必要であるという新たな課題であった。そこで現在、ハンガリー出身の写真家ブラッサイを対象とした単行本を執筆中である。写真、デッサン、彫刻、文学、映画…とジャンル越境を、彼が生涯試みたのはなぜか?今年度は単発論文の発表は敢えて見合わせたが、すでに同書は全体半分以上(400字換算300枚程度執筆済み、総頁500枚予定)を執筆し終えており、平成18年度中には刊行予定である。 なお並行して、平成17年8月に東京都写真美術館で開催された「ブラッサイ」展でも学術協力した。また筑波大学大学院芸術学専攻プロジェクト「高校生のためのアートライティング」コンテストの審査員としても協力し、クロスジャンル研究の可能性を教育現場に還元する試みも始めた。
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