研究概要 |
転移現象の脳内基盤を探るべく,128チャンネル脳波装置を用いて3つの事象関連電位実験(左方転位かき混ぜ文,右方転位文,三項動詞文)を行った。1.左方転位のかき混ぜ文では,欧米言語のWH移動にみられるフィラーギャップ依存関係に伴って生じる句を超えた持続性のLAN(ワーキングメモリの反映)は認められなかった。代わりに移動に伴う成分として,文頭の目的語名詞句の処理では統語逸脱を反映するLANが左前頭部に出現した。また文末動詞にて移動操作を反映すると思われる陰性波が,前頭〜中心部に出現した。これより左方転位文については,NP移動とWH移動とは異なった脳内処理基盤をもつ可能性が示唆された。2.右方転位文では,名詞句の転位と付加詞の転位を比較したところ,両者ともに陽性成分(P600)が認められた。しかしその頭皮上分布が異なり,項の処理では左半球が,付加詞の処理では右半球に大きな活動が認められた。これより,項と付加詞の処理では脳内基盤が異なることが示唆された。さらに,1と2より,左方と右方では異なる脳波成分が検出されたことにより,転位する方向性の違いで処理形式が異なることが示唆された。3.動詞句内での直接目的語の転位をみた3項動詞文(予備実験)では,転位文の動詞にて,早期と後期の陽性成分が検出された。後期陽性成分はフィラーをギャップに統合する処理が反映されているものと推察された。
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