昨年度までの研究において、古英語の北部方言で書かれた行間注解に、古ノルド語における文体倒置(stylistic fronting)と同様の現象が見られることが明らかにされていた。本年度は、この研究成果を国際会議(The Society of Historical English Language and Linguistics 2005)において発表した。分析の点では、昨年度までの「発見」が本当に方言的特徴を示すものなのかどうかを確認するために、AElfric's Catholic Homiliesをはじめ、これまで筆者が分析してきたいくつかの散文作品を検討した。検討の結果、やはりこれらの作品には文体的倒置と考えられる現象は見られないことが明らかになった。従って、北部方言で書かれた行間注解に見られる現象は、文体的倒置現象と解釈されうる可能性がより高くなったと考えられる。 このような成果と平行して、次の点でさらに研究を進める必要があることも明らかになった。すなわち、古ノルド語の言語事実のさらなる解明の必要性である。中英語作品のThe Ormulumを分析対象としたTrip(2002)では、現代アイスランド語における言語事実を古ノルド語でも見られるものとして議論が進んでいる。また、古ノルド語に文体的倒置が存在したとする先行研究においても、両言語における文体的倒置は同じ現象であるかのように取り扱われている。しかしながら、Willson(2001)によれば、古ノルド語における文体的倒置は、現代アイスランド語における文体的倒置とは若干異なる性格を有していたようである。この相違は本研究と密接に関わってくるが、残念ながらWillson(2001)にはテキスト分析に基づいた詳細なデータは提示されておらず、また、そのような先行研究も存在しないようであり、この点について現在研究を進めているところである。
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