研究課題
一昨年度までの研究において、古英語の北部方言で書かれた行間注解に、古ノルド語における文体倒置(stylistic fronting)と同様の現象が見られることが明らかにされていたが、本年度はさらに調査対象を広げ、北部方言以外の行間注解、古英語の散文資料、中英語の散文資料の分析を進めた。行間注解同士の比較については、予測通り、マーシア方言とウエスト・サクソン方言には当該の現象が見られないことが明らかになり、その研究成果を国際会議(14th International Conference on English Historical Linguistics)において発表した。また、本研究を進める仮定で作成したデータベースをThe Lindisfarne Gloss Databaseとして出版した。一方、古英語散文については総語数の多い27作品を分析の対象としたが、興味深いことに一見文体倒置と見られる現象が存在することが判明した。この発見は、文体倒置の起源をバイキングによる侵略に求めるこれまでの主張に対する反例となるが、さらに詳細な分析の結果、古英語散文作品に見られる現象は不定詞をも移動の対象とする点で、それを操作の対象としない、北部方言の文体倒置とは性質を異にすることが分かった。さらに、中英語散文について、54作品の分析を行ったが、その結果、北部方言には不定詞を対象としない文体倒置現象が見られる一方、その他の方言には不定詞を移動の対象とする文体と倒置的現象が見られることが判明した。これらの事実は、古英語は元来、不定詞をも対象とする、文体的倒置的な操作を有していたが、古ノルド語には不定詞を対象としない文体的倒置のみがあったこと、そして古英語および中英語の北部方言は古ノルド語の影響によって、不定詞を対象としない文体的倒置を持つことになった、と考えることで適切に説明できる。
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Exploring the Universe of Language : A Festschrift for Dr. Hirozo Nakano on the Occasion of His Seventieth Birthday, Nagoya University
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Textual and Contextual Studies in Medieval English : Towards the Reunion of Linguistics and Philology, ed. by Michiko Ogura, Peter Lang.
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