本年度は、昨年度抽出・作成した掘立柱建物・礎石建物遺構の基本的属性約120項目について、それぞれの型式分類作業などを通じて選択項目など一部補訂作業をおこなうとともに、岩手県・宮城県・秋田県・山形県・福島県の官衙遺跡・官衙関連遺跡・城柵跡等で検出されている建物遺構(竪穴建物を除く)について各属性ごとに資料を収集し、新たに構築したデータベース構造にしたがってデータベース入力作業を継続した。その結果、東北地方で2003年度以前に調査された当該遺跡のデータベースをほぼ完成させた。そのデータ件数は、遺跡数約220件、建物データ数約2800件、調査報告書・論文等文献数約2500件である。これらについては、一般公開の準備作業も合わせて進めている。 この資料収集とデータベース化によって、隅柱の柱掘りかたが隅行き方向に掘られるなど特徴的な柱掘りかたを伴う掘立柱建物例が、とくに栃木県北部から福島県・宮城県で目に付く傾向がある。福島県中通り地方北部に所在する郡では、そうした土木技法を採用した各郡間の技術的な繋がりをうかがうことも可能になってきている。ただし、その特徴的な掘りかたが建築構造と結びついているのか、掘削作業上における約束事としておこなわれているのか、などは今後の課題である。 また、柱抜取穴の掘られ方について、官衙遺跡では建物によって抜き取り方向が一定している例がみられ、宮城における土木作業に準じるような作業方式や労働力の編成のあり方が地方官衙においても採用されていたことが判明してきている。 本年度にはまた、正倉院文書にみられる石山寺造営記事から、居宅建物の柱寸法や土工量などを分析する作業もおこない、官衙造営との比較作業も開始した。
|