研究概要 |
本研究は、法的サービス利用にまつわる困難の大きな原因が,法律家の遍在であることから、法的サービスの入手可能性を平等化していくため,法律家を地域社会へ再配置するための現実的な政策基礎資料を得るため,日本の小都市や農山漁村を数カ所選び,(1)法的サービスの供給がどのように行われているかを地域事例調査等の手法により定性的に明らかにするとともに,(2)その同一地域住民が法や法律家に対してどのような価値意識をもつか等を大量調査によって定量的に明らかにしようとするものである.平成15年度には、(1)石見(7月16日〜7月18日)、(2)峰山・宮津(7月23日〜7月25日)、(3)宮古(8月5日〜8日)、(4)石垣(8月19日〜22日)の4地区を訪問し、裁判所、市役所、警察、県民生活センター、司法書士、弁護士等への聞き取り調査を行った。平成16年度に11〜12月に6地域について,無記名郵送方式による調査を実施した.6地域は、沖縄県石垣市、京都府京丹後市の一部(峰山町)、青森県五所川原市、岩手県二戸市、奈良県五條市(和歌山県御坊市の協力が得られなかったための代替地)、長崎県壱岐市である。調査対象数6,000、有効回収数1,783(有効回収率29.7%)であった。平成17年度には、本意識調査の集計をもとに、研究を進めつつ、質的調査の知見を分析、総合することにつとめた。その結果は、平成17年9月に、学術雑誌(『法社会学』)に「司法過疎とその対策」として、公表した。また、石垣市に関する包括的調査の報告が、平成17年度法社会学会学術大会で、本研究に協力した神戸大学大学院学生、吉岡すずかにより、報告された。 総じて、事例研究によれば、(1)弁護士の地域への定着により、訴訟、法律相談その他の法的サービスを受ける可能性が高まること、(2)地域に定着する弁護士は、事件の規模の小ささ、事件がこじれていること、地域の正義感覚や文化、裁判所の相対的な中央集中化等に由来して、一定の問題を感じていること等、が明らかになった。大量調査によれば、(1)法意識には、地域による偏差が一見しては見当たらないこと、(2)地域に即した法的サービス提供を望む意識が一般にみられること、等が明らかになった。これらの成果は、公設事務所勤務弁護士を中心に高く評価されている。なお、本研究の成果については、平成18年度法社会学会学術大会(平成18年5月)において、ミニシンポジウムを開催して、報告した。報告者は、研究メンバーより阿部昌樹、大塚浩、実務家として本研究に協力した長岡壽一(弁護士・山形県弁護士会)、矢箆原浩介(司法書士・釧路司法書士会の4名であった。また本研究の成果は、2007年法社会学国際会議(ベルリン)で報告される予定である。
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