研究概要 |
2003年度は将来不安の源泉として、教育によって蓄積される「人的資本」を取り上げ、主に社会階層化との関連において分析している。具体的な研究テーマは以下の二つである。 1."Quality of Education and Wealth Distribution": (1)不完全な能力評価、技術革新における能力の陳腐化などにより、入的資本の蓄積によって将来得られる収益には、保険の掛けられないリスクが伴う。そのため、教育への投資は最適な水準より過少になる。 (2)しかし、近年の日本のように、高い失業率の下でリスクの高まる社会においても、MBAなど起業家になるための特殊な教育に対する需要は高い。 (3)従来の同質化を目指す教育と起業家など一攫千金を目指す教育、二つの質の異なる教育に関する選択が、資産分布と内生的な相互関係をもっている点に関して、われわれはBowles and Gintis (Schooling in Capitalist America,1976)を参考にしながら、モデルを構築している。 2.「衒示的消費としての教育:日本の家計に関する実証分析」: (1)子供への教育投資には、親の効用を高める「衒示的消費」としての側面があり、教育が能力ではなく、社会階層のシグナルとして機能しているという見方がある。 (2)衒示的消費を指摘したVeblen (The Theory of the Leisure Class,1899)は、社会階層の高いクラスが低いクラスと差別化するために行うInvidious Comparisonと、低いクラスが高いクラスと思われるようになるために行うPecuniary Emulationを区別した。 (3)日本において教育が、Veblenの意味で衒示的消費となっているのかについて、われわれは家計経済研究所の家計消費パネル調査によるデータを使って実証している。
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