国際比較に関しては、本年9月に、本プロジェクトに参加しているすべての海外共同研究者を招いて会議を開催した。各国のこれまでの研究成果が報告され、統計データが紹介された。会議では、国際比較研究のためのフレームワークが検討され、死因統計を用いた死因の比較検討からはじめることが合意された。それをうけて本年度は1906年から1935年までの死因統計のデータベース化を進め、来年度における比較分析の準備が整えられた。 国内研究に関しては、都市と農村の死亡率水準の差異を検討するために統計データを収集した。それは、大正7年以降、内務省衛生局および県警察部衛生課が村単位で実施した農村保健衛生実地調査の報告書である。調査された村の統計データは集計されて『農村保健衛生実地調査成績』(内務省衛生局)としてまとめられているものの、関連する指標の関係たとえば乳児死亡率と哺育との関係などを村単位で検討することができない。そこで図書館、文書館への所在調査を実施した。収集には以外と時間がかかったが、全体の三分の二の報告書を収集することができた。収集された報告書の統計データのデジタル化は本年度からはじめられている。統計データ収集とあわせて、人口動態統計が始まった1899年から1909年までの10年間の乳児死亡率を推計した。明治期においては、死産と乳児死亡との区別が厳格ではなかった可能性が指摘されているからである。推計値と乳児死亡率の沖縄を除く全国平均との差は最大でも3パーミル弱であった。このことから、沖縄を除けば1899年以降の乳児死亡率は信頼性が高いことがわかった。さらに、この推計結果に基づいて1890年から1898年までの乳児死亡率を推計した。その結果、少なくとも1890年からは、従来から可能性が指摘されている乳児死亡率の低下傾向は認められず、むしろ上昇した可能性が高いことがわかった。
|