本年度は、3年間にわたる研究期間の初年度にあたり、おもに食肉・皮革産業に関する文献資料の収集および皮革産業従事者の聞き取り調査を行い、同時に国際比較調査の準備を行った。わが国において屠畜・食肉・製靴・太鼓などの従事者へのライフストーリー・インタビューの実施は、その産業がおかれている状況のゆえに、きわめて難しい問題がある。そのなかで数名の屠畜業関係者、製靴業関係者のライフストーリー・インタビューを実施した。とくに製靴業の高齢の靴職人に弟子入りした若い女性職人は、これまでの靴職人がもっていた被差別アイデンティティを変換するほどの効果をもったことが特質される。この事情を、新しく靴職人の修業に入った若い女性職人と彼女らを教えている高齢職人のライフストーリー・インタビューを行い、さらに靴工場がある被差別地区の現状を調査した。この経緯について、3月に行われる日本解放社会学会のシンポジウムで報告した。製靴業が差別的なまなざしをむけられていることを必ずしも認識していなかった若者を無自覚なものとして、これまで批判的に見てきた研究者にとって、この若者がおよぼした影響力を考えたとき、はたして今後の差別問題を考えるときに必ずしも批判的にとらえるべきではなく、むしろ積極的に評価していく枠組みの構築こそが求められる。また、滋賀県の被差別部落に位置する屠場を中心に、屠場をとりまく差別的なまなざしを言説の変遷を通じて明らかにした英文論文を用意し、日本の現状を国際比較の観点から検討するための準備作業を行った。
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