本年度は、3年間の研究期間の2年度にあたり、昨年に引き続き、食肉・皮革業で働く人びとの生活史の聞き取り調査を重点的におこない、同時に国際比較の観点からアメリカ合衆国、オーストラリア、スペインなどで日本の現状を報告する研究討議や食肉・皮革業についての現地視察をおこなった。皮革業では、製靴業に取り組みはじめた若い女性の経験と昔からの靴職人のライフストーリー・インタビュー調査をもとに、靴職人と若者の製靴業に対する考え方の齟齬と靴職人のアイデンティティの変化を論文にまとめ、また東京の墨田区を中心に戦前から行われている東京の皮革業の経験者のライフストーリー・インタビューをおこなった。語り手を探すには大きな困難を伴うが、数名の協力者を見つけることができ、かれらは戦後すぐの若い頃から今日の変化までを、自らの生活史をもとに語ってくれた。今日では、環境問題と廉価な海外製品におされ、皮革業の中心地であるこの地域一帯が大きな曲がり角に来ている。この産業に活路を見いだそうとする人と、産業に対する被差別感と後継者難から廃業をよぎなくされる二極分解の現状をうかがうことができる。屠場については、横浜屠場でライフストーリー。インタビューを開始している。この屠場の労働者は、自らの仕事に対してきわめて自覚的であり、誇りを持っている点が、ほかの屠場と大きく違う点だ。その点をさらに追究したい。国際比較という点では、食肉に関する限り、これまで肉食文化を主としてきた国であるために日本のようなまなざしにはだれもが否定的である。しかしながら、屠場で働く労働者の社会的地位が相対的に低位であることはいうまでもない。また、菜食主義や動物虐待の近代的な観念が、こうした屠場労働者に特有なまなざしをむけるようになる可能性も否定できない。これらの点は、今後、さらに追究していくテーマとなる。
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