わが国でカルテ開示の議論が盛んになったのは、1998年頃からであった。厚労省の委員会の報告書を受けて、法制化が試みられたが、医師会の反対により見送られた。しかし、2003年の個人情報保護法の制定により、カルテ開示は事実上、患者の法的権利として認められることになった。 しかし、われわれの調査によると、患者・市民は、カルテ開示が可能であることを認識しているものの実際にカルテ開示に踏み切るまでに至らない。臨床現場でも、インフォームド・コンセントを実施するケースは増えているが、カルテを患者に示すことはほとんど行われていない。われわれの調査結果によれば、医師会や看護協会の働きかけにも関わらず、現場での抵抗感は依然として根強いものがある。 われわれが、比較の対象として海外の国々は、次のようであった。NHS制度を有するイギリスでは、90年代初頭には法制化がなされていたが、焦点は開示よりも秘密保護にあった。また、最近では、患者の権利よりも患者の責任を求める方向に変化しつつある。オーストラリアは、多民族社会であり、原則としてガン告知を行う場合でも、患者の民族性に配慮した説明が行われている。台湾は、電子カルテ化が日本より進み、患者は診療場面ではディスプレイに映る自分のカルテを閲覧することができる。ただ、ガン告知では以前の日本のように患者よりも家族の意向が優先されていた。 日本では、むしろ、電子カルテ化にともなってこれから医療記録の開示が本格化していくであろう。その場合、重要なのは、開示によってどのような医療者-患者関係を作るかであり、この点についてまだまだ議論を重ねる必要がある。
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