研究課題
本年度は、これまでの議論をさらに深化させつつ、最終報告書の執筆・作成をすすめた。そこにおいて、西澤晃彦、山口恵子らは、制度的・社会的排除あるいは労働市場からの締め出しがもたらす都市下層-とりわけ野宿者-の社会的世界について明らかにしつつ、サバイバル・ストラテジーや空間利用を社会的抵抗して論じる試みを展開した。奥山真知、武田尚子、文貞實は、これまでまったくといってよいほど知られていなかった地方歓楽街の女性従業員について、特に労働市場に焦点をあてて、地域社会の下層部に位置づけられつつ流動するその生活について明らかにした。西澤、山口らの研究と、奥山、武田、文らの研究を総合すれば、ジェンダーによって仕切られつつ、それぞれ空間的に隔離されたところで流動し、また、固有の社会的世界を発生させていく現在の都市下層の様態を描き出すことができるように思われる。これに加えて、稲葉奈々子は、グローバルな人の流れを前提として、移住女性の生存のための抵抗をとりあげ、都市下層研究にダイナミックな比較の視点を導入した。そこでは、移住女性のネットワークが焦点化されている。これらすべての研究を貫いて、都市下層の社会的世界・ネットワークが排除への抵抗のキイとなることが示されたといえるだろう。中村祐司は、都市下層にとっては大きな影響・拘束とならざるをえない法制度について論究を深めることで、国家と都市下層との関連をテーマ化することに貢献した。本研究の総括として、記述の蓄積をこえて、労働市場論、国家論、グローバリゼーション論の成果を取り入れつつ社会的排除論と都市下層研究を接合させることによって、より社会学的に深化した都市下層研究を達成しえたと考える。
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季刊shelter-less 29
ページ: 132-152
現代思想 第34巻9号
ページ: 101-115
ページ: 155-167