研究課題
本年度は、昨年度検討した「現代的貧困」及び「社会的排除」に関する理論的研究枠組に基づいて、現代社会における貧困や剥奪そして社会的排除という先進諸国に共通する公的扶助政策上の課題を、原理的・多角的・実践的に解明するため、チャールズ・ブースやP.タウンゼント、A.B.アトキンソンによる貧困研究からアマルティア・センの必要(need)解釈の規範理論に至るまでの貧困研究の展開の包括的レビュー、EU(欧州連合)における貧困・社会的排除の測定指標(および最低生活基準)に関する最新の議論や「基礎所得(basic income)論」等の議論を主に検討した。この研究討議の中で、シティズンシップ、社会正義、平等といった問題を扱う近年の市民社会論をふまえ、現代における貧困と社会的排除の理解に不可欠な視点および方法に関する示唆を得た。また、先進諸国における公的扶助政策の直近の動向を検討した。例えば、先進諸国の公的扶助政策の働向を見てみると、いわゆるワークフェア(workfare)と呼ばれる社会保障と就労促進策(あるいは税控除制度)をミックスさせた取り組みが各国でおこなわれている。またサービス利用が制限的な公的扶助制度を改め、基礎年金のような形で最低生活保障をおこなう「基礎所得」と呼ばれる公的扶助制度の導入に向けた新しい議論が欧米で活発化している。さらに本研究では、これらの最新の政策動向を理論的かつ制度論的に把握し整理することによって、先進諸国公的扶助政策の最新動向見据えつつ、現在検討されているわが国の社会保障・社会福祉改革論議のポイントの理論的整理を行った。