研究の成果は以下の3点にまとめられる。 1.聴覚障害児の言語発達を多面的に診断するための1手段として、比喩的能力を考え、健聴中学生と難聴中高生計5名に対して、個別の教育実験的働きかけをそれぞれ5週間にわたって実施した。その結果、難聴児は健聴児に比べ比喩の理解や表現が著しく劣っており、小学校高学年のレベルに滞っていることがわかった。また、比喩理解の促進のための教育的働きかけを行った結果、比喩理解が顕著に進歩し、短期間でもその効果が認められた。特に対話法による働きかけと書き言葉によるフィードバックが、文脈を踏まえた比喩解釈に効果的であった。次年度以降、健聴の小中学校児童生徒で標準化を試み、学力や他の読み書き能力との関連を明らかにすることが課題である。 2.神経心理学運動検査の開発に関しては、手のキネチックな運動の客観的評価はこれまで難しく主観的評価に依存せざるを得なかったが、ビデオ映像の動作解析ソフトを利用することによって、検査結果を客観的に評価することが十分可能であることがわかった。次年度以降、テスト評価のための標準化と障害児のための診断を実施する予定。 3.難聴児や構音障害児の言語発達を診断する有効な手段として、「二次的信念課題」が利用できるのではないかと考え、あらたに検討された。健聴児童3年生に対する実験で、ちょうどこの時期から5年生にかけて急速に発達することが予測される結果が得られ、難聴児の言語発達の転換期を明らかにする可能性が得られた。
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