研究の成果は以下の3点にまとめられる。 1.ロシア版神経心理学的運動検査の結果をビデオ画像の動作解析ソフトを使用して解析した。対象は大学生5人、幼稚園年長児5人、小学生5人、2年生5人であった。その結果、年長児・1年生と2年生・大学生で結果が分かれた。運動反応を見た目で評価する方法に比較し、はるかに正確に運動反応の時間的変化過程を確認できた。また、片手における運動学習の経過と転移の経過がよくわかり、個人の遂行過程が詳細に分析できた。 2.算数問題解決能力の神経心理学的検査(小学校高学年レベル)を大学生2名と重度聴覚障害の中学生2名に対して実施した。その結果、聴覚障害児では算数問題の解決に極めて特異な傾向を示すことが明らかになった。比較的単純な算数の計算式から直接答えを導き出すことができるのに、文章の形式で与えられた問題では立式ができずに同じ計算を解決できない。そして複雑な計算式ではいずれの場合も解決できなかった。このことから、数的発達が十分ではないと同時に言語的思考の不十分さも考えられた。この場合ワーキングメモリーには問題がないのことが確かめられたので、記憶以外の思考の言語的要因の弱さが仮定される。 3.上の2名の聴覚障害生徒は文章の読みの過程を眼球運動分析によって解析した結果、聴覚障害が重度でも大学生に遜色ない読みを示したが、算数課題の解決からわかるように、声に出してうまく読むがその理解はできていない。聴覚障害児が学校教育を受ける過程でいつ、どのようにして読みを獲得していくか、読んだものの理解とのギャップをいつ解消できるのか、今後の新たな課題である。 現在、算数問題が解決できない子どもの指導方法の開発に着手している。最終年度のまとめとして、日本語版神経心理学的運動検査、算数検査の作成と、眼球運動解析による読みの習得レベルの特定、算数文章題の解決のための指導方法の開発が課題である。
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