研究概要 |
パニック障害(PD)に対する治療は,薬物療法と認知行動療法を組み合わせて行うことが望ましいと指摘されてきた.しかしながら,本邦においては,PDに対する認知行動療法(CBT)の効果に関する体系的な研究は少ない.そこで本研究では,PDに対する標準的なCBTプログラムを考案するとともに,その効果を実証的に検討した. 本研究は,大きく3つの部分からなっている.第1の研究では,DSM-IV(APA,1994)の診断基準を満たす広場恐怖を伴うPD患者15名(男子5名,女子10名)を対象として行われたCBTの症例検討を行うとともに,その治療成績に基づいて,10セッションからなる標準的CBTプログラムが作成された. 次いで,第2の研究では,広場恐怖を伴うPD障害患者を対象として実施された標準的CBTプログラムの効果が検討された.12名のPD患者を対象とした標準的CBTプログラム前後の治療成績の比較,および,CBT群12名と待機統制群8名との治療成績の比較の結果,今回作成されたCBTプログラムはPDの諸症状の改善に有効であることが示された.さらに,CBTの構成要素であるエクスポージャー法と認知の修正について,34名のPD患者を対象として,各構成要素の実施の有無による治療成績の差異を検討することによって,治療要素の単独効果について検討を行ったところ,エクスポージャー法は広揚恐怖の改善に,認知の修正は主観的不安の改善に有効であることが示された. 第3の研究では,12名の広場恐怖を伴うPD患者を対象として,標準的CBTプログラムによる治療前後の変化を脳内の糖代謝にどのような影響をもたらしているかを明らかにした.また,PD患者と健常統制群との比較が行われた.その結果,PD患者は,治療前には健常統制群に比べて大脳左半球前頭前側内部の代謝が低下していること,および,扁桃核他視床下部の代謝が亢進していることが確認され,CBTによる治療の後にはそれらの代謝が健常統制群を同様の状態に変化していることが確認され,今回作成されたCBTプログラムが生理学的変化を促進させる効果のあることが明らかにされた. 以上の研究の成果に基づいて,広場恐怖を伴うパニック障害患者に対する有効な治療法としてCBTプログラムのもつ臨床心理学的意義が考察された.
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