研究概要 |
本年度は次年度以降につなげる基礎資料を中心として収集した.特に,顔の構造的符号化処理に関わって,右半球紡錘状回が推定されている一括型処理と両側性の分析型処理の時間的な処理効率の相違を明らかにするために,事象関連脳電位(ERP)を記録して検討した. 1.表情判断における左右視野効果 健常成人を対象に,ヒトの表情の異なる顔と花の白黒写真を用意し,顔・花あるいは花・花を一対としてCRT上の中央凝視点の左右に提示した.表情判断時に記録した花・花に対するERPを参照波形とすると,T5・T6優勢な顔応答N170(Fz・Czでは極性反転)は顔提示視野と対側の半球で増大し,立ち上がり潜時も短縮した.これらの効果は左視野提示で顕著であり,右紡錘状回における一括型処理に関わる視野効果が示唆された. 2.視線移動に応答する電位 左右の眼を白黒写真から横長長方形に切り出し,鼻根部に凝視点をおいて静止刺激とした.視線を片眼のみで移動させたところ,その対側のT5またはT6で限局的に(他部位で極性反転なし)陰性電位(N200)が観察された.表情認知と関連づけながら,視線移動に特異な電位か,現在,検討中である. 3.ワーキングメモリとの関わり 顔と漢字を対として左右視野に同時提示し,Sternberg型記憶探索の変形課題を遂行させながらERPを記録した.表情判断時とは異なり,顔探索時には頭皮上広汎に分布する陰性電位がみられるともに,T5・T6では対側視野提示の顔刺激で潜時の短縮を認めた. 4.自閉症児・者,幼児で測定可能な対人認知電位測定法 自閉症児・者および健常児・者を対象に,既知と未知の人物,物品および単純図形を,それぞれ等確率で提示し,単純図形に対してキー押し反応を行わせた.その結果,人物刺激に対してN170が自閉症児・者にも観察され,この手法が健常者以外に対しても適用できることが確認された.
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