研究概要 |
本研究では,特に,対人認知を支える顔・表情認識の脳内情報処理の時間特性について頭皮上事象関連脳電位(ERP)を指標として検討し,その処理様式を探るとともに臨床適用も試みた. 1.顔記憶(ワーキングメモリ)表象と照合過程. Sternberg型の記憶走査課題で,課題関連刺激には後側頭部最大の陰性電位が惹起され,その発達潜時は課題関連刺激の呈示視野と反対側で同側に比べ50-60ms短縮した.本結果は半球相互に独立して顔視覚イメージや音韻情報を貯蔵し,入力情報と照合する機能を独立してもっており,同時並列的に照合処理が可能なことを示唆する.さらに,標的となる顔記憶表象の切り替えを要求すると,P3潜時に影響せず,事前的な再構築が可能なことを示唆した. 2.視線移動と表情変化における脳電位変化. 視線のみ,表情のみ,両者が同時に変化する顔図形に対し,いずれの条件においても右後側頭部部位で最大のN170が惹起され,同等の振幅を示した.また,視線方向とその視線対象となっている「もの」との関係を読み取るプロセスを探る試みで,健常者成人では関係性逸脱がN2-P3bを惹起したが,自閉症児1名のケースではそうしたERP変化が観察されず,今後の研究の手がかりが得られた. 3.パーキンソン病(P)における未知顔の再認記憶. モニタ上に未知顔を反復呈示し,初回顔には右手で,反復顔には左手でボタン押しをさせた.健常者とP患者間に頭蓋頂P170振幅・潜時で違いはなかったが,刺激後300-700ms区間振幅で健常者にみられた直後反復・遅延反復(lag1(6s)・lag3(12s))に対する漸減的な反復効果がP患者には観察されなかった.本結果はP患者の顔知覚に健常者と違いがないものの,未知顔の再認記憶に障害を示し,入力表象と記憶表象との照合過程における障害が示唆された.
|