研究課題
基盤研究(B)
行政改革のなかで、民間企業の経営理念・手法が導入されつつあるのは教育分野も例外ではない。世界貿易機関(WTO)では教育サービス貿易の自由化に向けた議論が開始され、これに対して大学界の主流派は懸念を表明している。本研究では、高等教育サービスの貿易を含む国際的な競争を対象として、大学間競争の行方や高等教育市場のあり方、評価による質保証の役割、政府の役割などを検討する。本年度は、昨年度に実施できなかったチリの調査を行うとともに、イギリスとアメリカの補足調査を行って研究成果をとづまとめた。その概要は以下のようである。(1)市場という視点からみた教育の特色は公共性と不確実性にある。企業経営や投資の世界では、一般に不確実性は回避すべきものとされている。しかし、教育においては、不確実性を操作する工夫によって、より高い成果を生み出すことが期待されている。(2)高等教育サービスの貿易の前提となる、国境を越える高等教育の制度的な位置づけに関する概括的な国際比較は、研究代表者も参加して本研究と並行して実施された、国際的な大学の質保証に関する調査研究協力者会議の『審議のまとめ』に収録された。そこで本研究では、制度上の位置づけとともに、それが各国の高等教育システムにおよぼした影響について分析をふかめた。(3)日本の高等教育市場は、言語による自然な障壁で守られ、現在は供給過剰でもあるから、海外大学が国内市場を席巻する可能性は小さい。しかし、高等教育サービスの貿易は相互比較のネットワークでもあり、そこから孤立することで日本の大学の水準が世界に認識されないという事態は避けたい。日本語による高等教育が大きな輸出産業となることは期待できそうもないが、相互比較のネットワークに参加するという意味で、とくに日本の中堅大学の国際化が重要であることを指摘した。
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