研究概要 |
初年度であるため,まずフラットシンギングに関係する先行研究を洗い出し,検討をした。その結果,ピッチマッチに関する新美政二氏らの研究データにモデル音によるピッチマッチ能力の違いが報告されていることに注目した。新美氏らの研究は調子外れに関わるピッチマッチテストであるため,30セント以内のいわゆるフラットシンギングのデータはインチューンとして問題視されていないのであるが,データによれば純音に対してもっともフラットになり,ついでピアノ,人声に対してはわずかながらシャープになっていた。ピアノに対して予想どおりであったが,純音,人声に関して我々の予想外のことであり,本年度は,この新美氏らによるピッチマッチをフラットシンギングという視点からとらえ直し,実験的に検証してみることにした。 実験をおこなうためには,さまざまな声種,声域の人声,機械,楽器音のピッチを正確に測定できるシステムが不可欠である。従来,日本で多く使用されてきたピッチ測定のソフト,システムをいろいろ検討してみたがいずれも誤差が多く,我々の研究目的からすれば,十分満足のできるものではなかった。そのため最終的にKAY社製の「CS4400」を購入し,これをもとに実験をすすめた。 モデル音は,「Protools」と「Autotune」を使用してピアノ音,純音,人声をさまざまなピッチに変換して作成した。被験者は愛知教育大学と鳥取大学の学生に協力していただいた。 結果は,やはり新美氏らの先行研究のデータに隠されていたものとほぼ一致した。つまり,原因は不明であるが,純音に対してもっともフラットになってしまったのである。我々のあらたな発見としては,予想されたことではあるが,裏声モデルが表声よりもより正確にピッチマッチできたということ。男性教師であってもピアノに裏声の実音モデルを併用して歌を教えることが正確なピッチで歌えるようになる,ということを暗示する結果と言えよう。
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