研究概要 |
中村は,まず,研究協力者の峯崎とともに,新数値積分法を3次元Kepler運動に適用し,Kustaanheimo-Stiefelの正則化変換を利用して,エネルギーや角運動量だけでなくRunge-Lenzベクトルをも厳密に保存する差分スキームを定式化し,数値計算例を加えてPhys.Lett.A誌に投稿し出版受理された.また,新数値積分法のStackel系への拡張を行い,その一例として可積分な場合のHenon-Heiles系の差分スキームを開発して国際会議「非線形数理物理における対称性」(ウクライナ)において発表した.さらに,2次元Kepler運動の差分スキームの時間変数についての高精度化の問題に取り組み,研究協力者の中西は誤差のない離散時間変数の満たすべき関係式を導出した. 一方,3体問題の差分スキームの開発に着手し,3体問題を三つの2体問題と拘束条件式の和に分解して,それぞれに新数値積分法を適用し,理論的には3体問題の全ての保存量を保存する差分スキームを定式化した.しかし,Lagrangeの正三角形解に適用したところ,陰解法であることに帰因する計算誤差の蓄積のため軌道は,大域的には安定であるものの,正三角形からのずれを無視できないものとなった.なお,同じ問題に対する通常の高次シンプレクティックスキームではしばらくの間はより高精度であるものの,ある時間の経過後には不安定となる. また,本科研費の援助により海外共同研究者のSchwalmを招聘し,辻本,峯崎とともに離散系のシンメトリーに関するレビューを受けることができた.同じく海外共同研究者のZhedanovを招聘して離散可積分系に関するレビューを受けた. 平成15年10月末に大分県湯布院町において,本科研費による「第一回計算数学研究会」を開催し,力学系の差分スキームについて活発な討論を経て研究のアイデアと成果の吟味を行った.
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