研究概要 |
本研究課題で提案する新数値積分法を「全保存型差分法(totally conservative integrator)」と名付けて以下の研究に取り組んだ. 昨年度までの研究において2次元,3次元Kepler運動の3種類の保存量を厳密に保存する数値積分法が得られ,周期軌道の場合,正しくもとの楕円の上を運行する離散Kepler運動が実現されていたが,時間変数については,Keplerの変数変換のため多少のずれが生じていた.今年度は,離散Kepler運動が与える質点の位置に元のKepler運動が到達する時間を正確に求めることで,離散Kepler運動の時間補正公式を導出した.この結果,時間・空間の全ての変数について正しく軌道の再現する修正離散Kepler運動を得ることができた. また,全保存型差分法によってKepler運動のRunge-Lenzベクトルのx成分だけでなく,角運動量やRouge-Lenzベクトルのy成分まで保存される理由を考察し,2次元,3次元Kepler運動が正準変換でStaeckel系に変換されることに基づいて,離散Kepler運動に現れる任意関数の適当な選択により角運動量保存の仕組みを解明することができた. 多体系の高精度シミュレーションについては,今年度は2つの固定された質点からの万有引力の影響を受けて運動する質点を表す重力2中心問題に全保存型差分法を適用した.その結果,得られた離散系は元の重力2中心問題がもつ2つの保存量を保存し,積分で表される第3の保存量についても近似的に保存することを示した.数値シミュレーションでは有界領域に全ての軌道が閉じ込められ,通常の高次シンプレクティックスキームに対する優位性を確認した. さらに,海外共同研究者のZhedanovを招聘して離散可積分系に関するレビューを受けた.平成16年11月に滋賀県伊香郡西浅井町において,本科研究費による「第2回計算数学研究会」を開催し,数値計算と離散可積分系について活発な討論を行った.
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