研究概要 |
ハミルトン系向けの数値積分法として,シンプレクティック数値積分法やエネルギー保存差分法が広く用いられている.しかし,これらの数値積分法はハミルトン系がもつ全ての保存量を保つわけではないので,真の解軌道とは著しく異なる解軌道を与える可能性がある.実際に,これらの手法ではケプラー運動の長時間挙動は再現できない.本研究の目的は可積分ハミルトン系の全ての保存量を保つ数値積分法である全保存型差分法(totally conservative integrator, TCI)の開発である.既にこの新数値積分法によって,ケプラー運動の解軌道が完全に再現されることがわかっている. 今年度は.まず,不等間隔差分を利用して質点位置の時間変化を追跡する関係式を導出することで,ケプラー運動の解軌道だけでなく,解軌道上の時間変化を正確に再現することに成功した.この結果は,現在,Phys.Lett.A誌に投稿中である.この関係式によって,任意の初期値に対して有限回の四則演算でケプラー運動の時間変化を一般化相空間上において完全に再現できることになった. つぎに,変数分離法とエネルギー保存差分法とを組み合わせることで,新数値積分法が,可積分ハミルトン系の重要なクラスであるステッケル系全般へ拡張できることを示した.新数値積分法はステッケル系がもつ全ての保存量を保つため,得られた差分方程式は差分幅によらずに,長時間にわたり同じ解軌道上を時間発展する.以上はJ.Phys.A誌に投稿中である. ステッケル系の1つとして重力2中心問題がある.この系の質点の運動範囲はエネルギーを含む2つの保存量で定まる.新数値積分法はこれら2つの保存量を保ち,導かれた差分系の解の存在範囲は,元の系のそれと完全に一致する.この結果についても,J.Phys.A誌に投稿中である.
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